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今、文字(テキスト)に求められることって何ですか?

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f:id:KAI-YOU:20170323132234j:plain KAI-YOU5周年イベント「グレイトフルポップ」ありがとうございました! Phot by Takuya Wada

代表・米村と副代表・新見の連載がスタート。ふたりが毎週火曜に週替りでブログを書いていきます!

代表/副代表が普段考えていること」「お互いが書いた記事への意見」「お互いに言いたいけど言いにくいこと」などなどが書かれていく予定(!)です。

文字に求められていることって何ですか?

 にいみなお(Twitter@NAO_NIM


先日イベントの取材に行って思ったことがある。

内沼晋太郎氏がプロデュースする、100営業日連続でトークショーを行う「本屋 EDIT TOKYO」という企画店舗がこの3月までオープンしている。

そこで、『音楽レーベルの未来について』というイベントが行われた。ワーナーのレーベル「unBORDE」主宰の鈴木竜馬氏、ネットレーベル「OMAKE CLUB」主宰のTSUBAME氏、メディアレーベル「lute」のプロデューサー・五十嵐弘彦氏をゲストに、lute編集長の武田俊氏が司会をつとめるイベントだ。

自分の中の「良いトークイベント」の定義は、話を聞いているうちに質問したいことがたくさん出てくる、トークの趣旨とは全く関係ないけど考えるきっかけをくれる内容であることで、そういう意味では『音楽レーベルの未来について』も贔屓目抜きですこぶる良いイベントだった。余談だけど元KAI-YOU代表の武田も安定の司会力を発揮していた。

その詳細は、後日掲載予定のレポートに譲りたい。

僕が気になったのは、そのイベントの質疑応答で出たこの質問。

「若い人はディスクレビューをほとんど読まないということが言われている中、音楽において文字(テキストメディア)に求められることって何ですか?」(要約)

それに対する登壇者の回答とは別に、「KAI-YOU.net」を運営している以上、無関係ではない自分もつらつらと考えていた。

確かに、ユーザーへの訴求力という点で言えば、文字ではなく画像や動画メディアの力が大きくなっている。

ただ、「言葉で表すことの意義が失われている」とは僕は思わない。けれど、求められる言葉の質は変わったような気がする。

「何かを教える/啓蒙する言葉」ではなくて「言語化される以前の未分化の感情を自分の代わりに言い表してくれる言葉」がより求められるようになってきたのではないか、という感触を持っている。

それらはどちらも「批評」で、別に昔から、全く想像も及ばなかった視座から新たな解釈に気付かせてくれる「批評」もあれば、「そうなんだよ!」というなんとーなくみんなが抱いてる感覚や感情を的確に言語化してくれる「批評」もあった。

けれど、今は後者への比重が増しているのではないか、という気がする。

ラ・ラ・ランド』と『四月になれば彼女は』

ラ・ラ・ランド』評の中で、最も物議を醸している記事は、ジャズ・ミュージックの菊地成孔氏によるものだろう。

たぶん特に物議を醸した、というか不評を買ったのは以下の記述だろう。

ラ・ラ・ランド』程度で喜んでいる人々は、余程の恋愛飢餓で、ミュージカルについて無知で、音楽について無知で、ジャズについては更に無知という4カードが揃っている筈、というかデイミアン・チャゼルの世界観がフィットする人々である。
菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評:世界中を敵に回す覚悟で平然と言うが、こんなもん全然大したことないね | Real Sound|リアルサウンド 映画部より引用

作品を批評するのはいいが、作品を鑑賞して楽しむお客さんを批評するのは許せない、というのが一番大きな反応だったように思う。

その物言いとか、お客さんを批評することの是非とかをここで問いたいのじゃなくて、「ラ・ラ・ランド』が恋愛飢餓者に突き刺さった」という指摘には、大いに気付かされるものがあった。

この「恋愛飢餓」について、菊地成孔氏が補記を行った『ラ・ラ・ランド』評第2弾も出ていて、そこでより詳しく記述されている。

本稿で筆者は「こんなもんに胸をキュンキュンさせている奴は、よっぽどの恋愛飢餓で(後略)」と書いたが、これは勿論、恋愛未経験者(処女/童貞性)を指しているのではない。
生まれてから一度も飯を食ったことがなく、飯というものの存在すら知らぬ者には、おそらく飢餓感はない(そのかわりに気がつく前に死亡するが)。 あらゆる飢餓感は、喪失の結果だ。恋愛飢餓は、過去に恋愛を貪り、現在は貪れなくなっている者こそが重症化するのである。古いネット的な言い方をすれば、ガチンコの飢えは、かつてリア充だった者の特権であり、最初から獲得していない非リア充の半端な飢えとは比べようもない。
この、図ったのか図らなかったのか判然としないまま、マーケティングで大勝利を収めた本作の構造は、ここまで書いてきたことと以下のような図式的な関係を結ぶ。

菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評 第二弾:米国アカデミー賞の授賞式を受けての追補 | Real Sound|リアルサウンド 映画部より引用



なぜ恋愛飢餓者にそれほど刺さったのか、それは元エントリに詳しい。

たぶん全く共感できない、という人もいるだろう。

ただ、僕はこの評を読んで、「恋愛の喪失」「恋愛への飢餓」という同時代性をテーマにした、去年の別の作品のことを思い出した。

それは、昨年『君の名は。』を手がけた東宝のプロデューサー・川村元気氏が、同作の大ヒットの最中に出版した自身の小説『四月になれば彼女は』だ。

川村元気氏と言えば、昨年は『君の名は。』以外にも、『何者』『怒り』など、テーマも客層も全く異なる話題作品を手がけ、その振れ幅を見せつけた。

君の名は。』製作と並行して執筆していたという『四月になれば彼女は』について、本人は、「君の名は。』が、高校生の主人公ふたりが恋愛していく様を描く物語だとしたら、『四月になれば彼女は』は「その後」の物語」だと後に語っている。

そして、『四月になれば彼女は』のモチーフこそ、「恋愛の喪失」だった。

執筆に当たって、100人に「今恋愛をしていますか?」と話を聞いたところ、多くの人が熱狂的な恋愛をしていなかったという。つまり、川村元気という当代随一のプロデューサーもまた、「恋愛の喪失」=「恋愛飢餓」を感じ取り、作品にしたのが2016年のことだった(『ラ・ラ・ランド』のアメリカでの公開は2016年)。

君の名は。』も、多くの人の間で議論されているように、「なぜ主人公は瀧くんでなければいけなかったのか?」という必然性を描くのではなく、「運命の相手がきっとどこかにいるはずだという予感」を抱いてしまう感覚を切り取った作品だったからこそ、あそこまで多くの人に支持されたのだと思う。

セカイ系」というワードにピンと来る人にとってはそんなの言われるまでもないことだろうけど、そうではない多くの少年少女たちに熱烈な支持を受けている要因の一つは、その古いのか新しいのかいまいち判然としない「今」に横たわっている同時代性をきちんと大衆に届かせる形にした、というところにあるのではないかと思う。

君の名は。」の製作と並行して書いていたのが『四月になれば彼女は』です。「君の名は。」が、高校生の主人公ふたりが恋愛していく様を描く物語だとしたら、『四月になれば彼女は』は「その後」の物語です。
「勝算のない所から始めます」 川村元気のヒットの見つけ方 - Yahoo!ニュースより引用

川村元気は、インタビューでこう答えている。

世紀の大ヒットを記録した『君の名は。』のその後の物語だという『四月になれば彼女は』がこのタイミングで出版され、『ラ・ラ・ランド』と呼応する感覚が下敷きにされていることに、僕は一つの同時代性を見る。

文学のふるさとの喪失」

話を戻す。全くまとまりのない雑記で恐縮だけど、「テキストメディア」に求められているものについて。
テキストに限らず、作品でもそうなのだけど、「視聴者・ユーザーと異なる次元から発信される、何かを突き放した啓蒙的なもの」ではなくて、「同じ次元から発信される、自分の感情や感覚に形(言葉や映像)を与えてくれる共感的なもの」に、今の比重が置かれているという感覚を、ここ数年強く持っている。

それが良いとか悪いとかではなく、現にそういう時代になっている。だから、突き放す言葉ではなく、共感を呼ぶ・みんなの感覚を言い表す言葉が、今の潮流的にはテキストメディアに求められているものに当たるんじゃないかと、冒頭のイベントを聞きながら考えていた。

その流れに乗るのか抗うのか、それはメディアの自由だ。ただ、そういう時代に突入しているという自覚は持っておきたいと思う。
それが「ポスト・トゥルース」と言われるものなのかは正直わからないので、大学で無頼派を専攻してきた僕はそれを「文学のふるさとの喪失」と命名することにした。今。

http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/44919_23669.html
坂口安吾文学のふるさと」(青空文庫


坂口安吾文学のふるさと」はごく短くもので、青空文庫で全文が読めるので、興味があったら読んでみてください。

このテキストは、啓蒙的なのか共感的なのか、それは全くわかりませんが…。

ちなみに僕は『ラ・ラ・ランド』にはめちゃくちゃグッときました。特に恋愛には飢えてないつもりだけど

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