文化における不可視のパラメータ「かっこよさ」について
こんにちは。毎週水曜日に社内で行っている「なんでもプレゼン」の様子を編集部・森田がブログに公開しています。
今週発表をしてくれたのは、KAI-YOU代表、わいがちゃんよねやさん(@TYonemura )です。
かつて一世を風靡した「niconico(ニコニコ)」というコンテンツが纏っていた「かっこよさ」について考察を発表してくれました。
ニコニコが最近元気ないっていう報道が多い
2007年のサービス開始から動画上に流れる独自コメント機能で人気を博し、日本の動画サービス業界を席巻したニコニコ動画。しかし、近年では人気動画投稿者や生放送主たちが、YouTubeなどの他社サービスへと流出している現状があります。
最近ではTVアニメ『けものフレンズ2』のたつき監督降板や、ドワンゴが制作したTVアニメ『バーチャルさんはみている』への内容批判。スマホ用ゲーム『テクテクテクテク』がわずか半年でサービス終了するなどニコニコ(ドワンゴ)が手がけるコンテンツは撤退戦が続いています。
さらに、組織再編でドワンゴはKADOKAWAの完全子会社化され、川上量生社長は辞任。有料会員数もピーク時から約60万人以上落ち込んでしまっています。
このような失敗には、様々な要因が考えられますが、「サイトのUI/UXデザインが悪い」という部分に集約するのではないでしょうか。
ではなぜ、ニコニコはここまで衰退しなくてはならなかったのでしょうか?
わいがちゃんよねやさんはその一番の原因は「かっこよさ」が失われたことにあると考察しています。
「かっこよさ」とはなにか?
ここからはさらに「なぜ、ニコニコはかっこよくなくなったのか」について掘り下げていきます。
辞書的にはこのような意味がある「かっこいい」という言葉。
ギークやナードといった言葉はどちらも根本的には「オタク」を指すような言葉ですが、かつてのニコニコにはそういった人で溢れ、独自のカルチャーを発展させていったのです。
その発展の鍵が「かっこよさ」に紐づいた「自主性」「自立性」「アマチュアリズム」と呼ばれるキーワードの数々です。
それらは「ストリート性」という言葉に置き換えることができるとわいがちゃんよねやさんは言います。
ニコニコはかつて「ストリート」でした。
2007年の初音ミクの登場によるDTMカルチャーや、そこから派生するように生まれた「踊ってみた」「描いてみた」と呼ばれる独自の文化が発達していました。
それらは実際のストリートで起きてきた、ヒップホップ音源の制作やグラフィティアート、ストリートダンスなどのカルチャーと酷似しているように思われます。
当時、著作権的には認められていない「二次創作」や「ゲーム実況」などの非合法なカルチャーも蔓延していました。
この様な側面からも勃興期のニコニコはストリート性を帯びた空気感をまとっていたといえるかもしれません。
しかし、そんなニコニコは徐々にそのストリート性(かっこよさ)を失っていきます。
ストリート性を帯びたユーザー発の作品が上がっていく場所というよりも、上から与えられたもの消費する場所へと変化し、宣伝するためのメディアに変貌を遂げていきました。
そしてわいがちゃんよねやさんは、ストリート性が失われたことの原因として「“リアルの価値”が喪失していってるのではないか」という指摘も挙げています。
年に一度「ニコニコ動画のすべてを地上に再現する」というコンセプトのもと行われていニコニコ超会議には、巨大なオフ会という他に類をみない名目がありました。超会議はニコニコというストリートの場の延長線上にあったのです。
しかし最近では超会議のようにリアルで活動することは出会い目的の場になったり、アイドルの握手会のようなニュアンスを含むようになってしまっています。暴力事件などのトラブルも起こるようになってきました。
「今みんながいるストリートってインターネットじゃないですか。」 iLLNESS(BBC)インタビュー 現代の、第3空間としてのストリート
ストリートブランド・BLACK BRAIN Clothing(BBC)のディレクターであるiLLNESSさんは「ストリートはスマホの中にある」と語ります。
現代において「作品を見て楽しみ、自分で作品を発表する」といったストリート的な表現の場は、すべてスマホの中で完結しているのです。
ニコニコような事態に陥らないためには、再生数や登録者数、メディアや業界人の言説では知りえない不可視のパラメータ「かっこよさ」を見極めていくのが大切だとわいがちゃんよねやさんは発表を締めくくりました。
おまけとして、もうひとつのストリート感とは全く別のベクトルにある「特定の分野でトップになること」のかっこよさについて紹介してくれました。
米津玄師さんはボーカロイドでの楽曲制作や投稿を出自に持ちながら、自ら歌唱や演奏も行い、1人のアーティストとしてBillboard Japanが発表した2018年ヒットチャートで一位を獲得しました。
彼の存在は「かっこよさ」が蔑ろにされてきている時代において唯一無二の「かっこよさ」を獲得しています。
ニコニコの様に「かっこよさ」を失ってしまわないためにも、弊社も同じメディアとして全方位で「かっこよさ」を追求していかなければなりません。