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KAI-YOU起業への道 〜決意前夜篇その2〜

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だいぶ間が空いてしまったけれど、続きを記したいと思う。前回のエントリをお読みでない方は、下記からどうぞ!
http://d.hatena.ne.jp/KAI-YOU/20110711


雑誌創刊前の創刊イベントという、今思えばツッコミどころ満載のイベントも温かいゲストのお二方とお客さんのおかげでなんとか終えた後、初めてのことだらけの編集作業が始まった。色んな人に聞いてみると、どうもInDesignというソフトが必要らしく、とりあえず学生の立場を利用して普通よりも安いアカデミック版を購入した。まだCS3だったと思う。デザイナーの知り合いなんか当時はほとんどいなかったから、教本を片手に手探りで組版を行っていった。今読み返すと「これWordですむレベルじゃね?」と昔の自分にちょっと意地悪な気持ちにもなるが、その時は「雑誌のようなもの」の形に、自分たちで書いたり、構成したりした文章が変化していくことが単純に面白かった。
初めての編集作業、初めての組版、初めての入稿が終わり、首を長くして待った後、本が到着した時はとても嬉しかった。たしか記念撮影なんて若々しいこともしていたような気がする。今もオフィスの一角に残り数部となったこの創刊号はあるのだけど、若さと熱意ばかりが前にでていて、読み返すのはちょっと恥ずかしい……。


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創刊イベント「ゼロから始める『文学』、あるいは『小説』」の様子。


そんな創刊号の喜びもつかの間、もっとやりたいことがあるという気持ちが次号の制作を急がせた。
ぼくたちがやりたかったことは、「文学」にまつわる閉塞感を越えた単純におもしろいものを届ける場を作ることだった。そしてそれは何も「文学」だけの問題じゃあなく、様々なジャンルのあらゆるものが、ごくごく小さなコミュニティーの中で内向きに消費されている場所を横断していくようなことを、雑誌や本の形を借りて作り上げたかったのだった。

気持ちの焦りとともに、すぐ次号となる『界遊002』の制作に走った。新しく取り入れたのは、ぼくらが「文学」を手に取るのと同じレベルでまた楽しんでいた、マンガやアニメ、ゲームなどの企画だ。市場として成熟しているそれらをとりこみ、ジャンルを横断させ誤配を狙ったり、グラフィカルな要素を増やしたりと、小さな工夫を行った。同時にトークイベントなども行い、ストックコンテンツとしての雑誌だけでない、活発な動き方を心がけた。自分たちが動き回れば徐々に状況は変わっていくもので、『界遊』の売上は伸びていった。しかし本を作り上げるごとに「もっとできることがあるはず」という思いがどんどん強くなり焦りは増す。それがループするように、新しい号を作るエネルギーになって、(個人的には)あっという間に、『界遊004』までたどりついた。


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『界遊004』のリリースイベント「グレイトフル・ポップvol.1」のトークの様子。左から、司会・武田、まつきあゆむさん、佐藤大さん、峰なゆかさん、藤城嘘さん、仲俣暁生さん

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客席の様子

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トリをお願いした、SOURさん


そうやって『界遊』を作っていく中で、ぼくらが共有していたルールのようなものがある。それは
・できるだけ遠くに、より多くの人に届けられるものを作ること
・自分たちの趣味ではなく、その先にいる人(普段本を手に取らないような人)を意識して作ること
だ。
しかし、形態的には自分たちでお金を出しあって作るミニコミ誌である以上、毎号このルールにぶちあたってしまう。気持ちとしては、「遠くに届けられるもの」を作れていたとしても、どうやったって規模的に商業誌のような届け方は今の体制じゃ作られない。毎号フルパワーで作ってはいるものの、いやだからこそ片手間でできるものではなくなってきていた。でもここでやめるのは、あまりにも中途半端だ。


そこで出てきたのが、誰かがふと口走った、いたってシンプルな方法だった。
「ちゃんとビジネスとして回せない限り、遠くに届けられないならこのまま作り続ける意味ないじゃん。同人誌作りたくてやってるわけじゃないんだから、いっそ会社にしようよ」


ここから、ぼくらを巡る状況が一気に変わっていった。